盛岡家庭裁判所大船渡出張所 平成5年(家イ)22号 審判 1993年10月21日
異議申立人
気仙太郎
主文
本件異議申立のうち、本件離婚審判中の離婚を命ずる部分及び子の親権者を異議申立人と定める部分に対する異議申立をいずれも却下する。
理由
一本件離婚審判のうち、当事者間の離婚を命ずる部分は、調停期日における当事者双方の離婚の合意に基づくものであるので、実質的には、当事者間に離婚のみの一部調停が成立しているのと何ら異ならない。また、本件離婚審判のうち、子の親権者を異議申立人と定める部分は、異議申立人の主張・希望に合致するものである。加えて、異議申立人の異議申立理由は、別紙に記載のとおりであるところ、異議申立人は、本件離婚審判のうちこれらの部分に対して特段不満を主張しているわけではないし、平成五年(家イ)第二二号事件申立人兼同第二三号事件相手方気仙花子は、本件離婚審判に対して何らの異議申立もしていない。
したがって、異議申立人の本件異議申立のうち、本件離婚審判中の離婚を命ずる部分及び子の親権者を異議申立人と定める部分に対する異議申立は、異議申立の利益がない。そして、異議申立の利益は、通常訴訟における訴訟要件と同様の意味で、申立の適法要件であると解されるので、異議申立の利益を欠く部分は、不適法である。
二本件離婚審判中のその余の部分に対する異議申立は、特に不適法であるとは認められないので、本件異議申立により失効した。
三以上のとおりであり、本件異議申立のうち、本件離婚審判中の離婚を命ずる部分及び子の親権者を異議申立人と定める部分に対する異議申立は、不適法であるのでこれを却下することとし、主文のとおりに審判する。
(家事審判官夏井高人)
別紙異議申立の理由
一 原審判は、「相手方(二三号事件相手方、二二号事件申立人)に所得がなく、見るべき財産もないことから養育料の負担能力がないものと認め、養育料の支払を命じない。」とし、更に、「無職であり資産もないので、慰謝料の支払時期をこの審判が確定した日から一年間猶予することとする。」としている。しかし、相手方は、平成五年九月下旬ころ、B市所在のS内科医院に看護婦として勤務し、相当の給料を得ている。
二 原審判は、申立人(二二号事件相手方)は、相手方(二二号事件申立人)に対し、「相手方の過去の男性関係等を詮索したり、厳しく責めたりすることもあった。」とか、「申立人が相手方の過去の男性関係等へのこだわりを捨てることができず夫婦の関係をぎくしゃくしたものとさせることとなった。」とし、更に、「相手方の過去の男性関係については、申立人がそれを承知で婚姻の継続を望んだのである以上、これを一旦許したものと解すべきであり、相手方の過去の男性関係を理由とする慰謝料の支払を認めることは相当でない。」としている。
しかし、申立人が相手方の男性関係を問題にしているのは、過去の男性関係より現在の男性関係についてである。
この点については、原審において述べたつもりであるが、原審判は全く触れておらず、不当である。
よって、異議を申立てる。
《参考・原審判》
主文
一 二二号事件申立人兼二三号事件相手方気仙花子と二二号事件相手方兼二三号事件申立人気仙太郎とを離婚する。
二 二二号事件申立人兼二三号事件相手方気仙花子と二二号事件相手方兼二三号事件申立人気仙太郎との間の長男一郎(平成四年九月二三日生)の親権者を父である二二号事件相手方兼二三号事件申立人気仙太郎と定める。
三 二二号事件申立人兼二三号事件相手方気仙花子は、二二号事件相手方兼二三号事件申立人気仙太郎に対し、本件離婚に伴う慰謝料として金一〇〇万円を、この審判が確定した日から一年を経過した日限り、支払え。
四 本件費用は、各自の負担とする。
理由
第一 申立ての要旨
一(二二号事件)
(1) 二二号事件申立人兼二三号事件相手方気仙花子(以下、「申立人」という。)と二二号事件相手方兼二三号事件申立人気仙太郎(以下、「相手方」という。)とを離婚する。
(2) 申立人と相手方間の長男一郎(平成四年九月二三日生・以下、「一郎」という。)の親権者を母である申立人と定める。
(3) 相手方は、申立人に対し、一郎の養育料として、毎月金三万円を支払え。
(4) 相手方は、申立人に対し、慰謝料として、金一〇〇万円を支払え。
二(二三号事件)
(1) 相手方と申立人とを離婚する。
(2) 一郎の親権者を父である相手方と定める。
(3) 申立人は、相手方に対し、一郎の養育料として、同人が満一八歳に達する月まで、毎月金三万円を支払え。
(4) 申立人は、相手方に対し、慰謝料として、金一〇〇〇万円を支払え。
第二 本件各調停事件の経過
一 申立人は、上記の趣旨の調停を求め、平成五年六月二一日、当庁平成五年(家イ)第二二号夫婦関係調整調停事件として係属し、相手方は、上記の趣旨の調停を求め、同年六月二三日、同第二三号夫婦関係調整調停事件として係属した。
二 当調停委員会は、両事件につき二回にわたり調停期日を開き、当事者双方から詳細に事情を聴取し、当事者双方の提出した書面等を検討したうえ、調停による紛争解決を試みたところ、離婚自体については当事者双方に合意が存在するものの、それ以外の付帯事項等(とりわけ、一郎の親権者の指定及び申立人の慰謝料支払義務の有無)については当事者双方の意見の開きが大きく、合意による解決がかなり困難であることが判明した。
三 しかしながら、当調停委員会は、本件事案の特質や紛争の経緯等の事情に鑑み、公開法廷における訴訟での解決が極めて不適切であると判断し、当事者双方に対し、家事審判法二四条所定の審判による解決を提案したところ、当事者双方から、この提案に対する一応の合意を得た。
なお、当調停委員会は、調停期日において、当事者双方に対し、同法二四条審判に対しては異議申立をすることができること、異議申立を却下する審判に対しては抗告をすることができることを十分に説明した。
四 当調停委員会は、その後、評議のための準備的期日を開き、本件紛争につき、綿密な検討を加えたうえ、最終的に全員一致の結論を得た。
第三 本件各事件に対する判断
一(事実関係の認定)
本件記録上の各資料及び当事者双方からの事情聴取の結果によれば、次のとおりの各事実が認められる。
(1) 相手方は、平成三年二月ころ、A市所在のスポーツクラブで申立人と知り合い、すぐに申立人と婚姻を前提にした交際を始めた。当時、申立人は、A市内の病院に準看護婦として勤務し、相手方は、A市内の会社に勤務していた。
(2) 申立人と相手方は、平成三年四月ころには同棲を開始し、同年六月八日に挙式のうえ、新婚旅行に出かけ、申立人が病院を退職した後、同年八月七日に婚姻届出を了した。
(3) ところが、婚姻届出直後に申立人の過去の多数の男性関係等が発覚し、申立人の交際相手であった男性との間でトラブルが発生するなどした。しかし、相手方は、世間体等を考慮し、申立人との婚姻生活を継続した。ただし、相手方は、申立人に対し、申立人の過去の男性関係等を詮索したり、厳しく責めたりすることもあった。
(4) 平成四年に入り、申立人は、出産のためB市の実家に帰った。そして、平成四年九月二三日、申立人と相手方との間に長男一郎が誕生した。
(5) ところが、出産後、申立人がB市の実家からA市に戻ることを拒んだため、相手方は、やむなく土曜と日曜はB市で過ごし、それ以外の日はA市で勤務する生活を続ける一方、勤務先に対してB市への転勤を願い出ていたが、認められなかったため、結局、平成五年四月ころ、A市の勤務先を辞職してB市に戻り、食品販売業を自営することとなった。
(6) しかし、申立人の実母と一郎が病気になったため、申立人がその看病等で疲労していたこともあって、申立人と相手方との婚姻生活は、必ずしもしっくりいっていなかった。特に、相手方が申立人の過去の男性関係等へのこだわりを捨てることができず、また、申立人の実家と相手方の実家との間の関係にも円滑を欠いていたことが夫婦の関係をぎくしゃくしたものとさせることとなった。
その結果、申立人は、相手方との離婚を考えるようになり、相手方がB市での生活を始めて間もなく、その旨を相手方に告げ、一郎を相手方の許に置いたまま、「五〇〇万円支払ってでも別れたい。」と言って家出をし、申立人の実家に戻った。
(7) 相手方は、職場を退職してまで家族のことを考えてきたので、申立人の翻意に驚き、親族等も中に入って関係調整に努めた。また、相手方は、一郎を抱いて申立人の実家を訪れ、婚姻生活をやりなおすように申立人を説得したりするなどの努力を重ねた。
(8) しかしながら、申立人は、相手方との離婚の意思を捨てず、申立人の家出後、夫婦別居の状態で相手方が一郎を養育するという生活が続き、最終的に、本件各調停の申立に至ることとなった。
(9) 相手方は、遅くとも本件申立時までには、申立人との離婚を決意した。また、申立人は、その後も離婚の意思を維持している。
二(当裁判所の判断)
以上認定した事実関係を踏まえ、当裁判所は、本件調停事件の調停委員会を構成する家事調停委員X及び同Yの各意見を聴取し、前記調停の経過及び当事者双方の態度その他本件に関する一切の事情を考慮したうえ、次のとおりに判断する。
(1) 申立人と相手方は、離婚に合意しており、かつ、申立人と相手方との婚姻関係はほぼ完全に破綻していて修復の余地がないものと認められるので、当事者双方の離婚を認めるべきである。
(2) 申立人は、現在無職であり、今後仮に就職するとしても、B市での就職になるか否かはかなり流動的であり、その他の生活面においても現時点では安定性を欠いており、これに、前記認定のとおりに相手方が一郎を養育している実情やその経緯等を考慮すると、一郎の親権者については、とりあえず相手方と定めるのが相当である。ただし、将来、申立人が就職して経済的に安定し生活環境も整ったならば、その時点において、改めて親権者変更の調停または審判により最終的に一郎の親権者を確定するのが至当である。
なお、申立人に所得がなく、見るべき財産もないことから、養育料の負担能力がないものと認め、申立人に対しては養育料の支払いを命じない。
(3) 申立人と相手方は、相互に慰謝料の支払を求め合っている。申立人の過去の男性関係については、相手方がそれを承知で婚姻の継続を望んだのである以上、これを一旦許したものと解すべきであり、申立人の過去の男性関係を理由とする慰謝料の支払を認めることは相当でない。しかし、申立人が、婚姻生活の継続に積極的ではなかったこと等の事情を考慮すると、婚姻破綻に至った原因の多くの部分が申立人の側にあったことは否定できず、その意味で、申立人には相手方に対する慰謝料支払義務がある。ただし、前記認定のとおり、婚姻破綻に至るまでには、相手方にも全く非がなかったわけではない。特に、相手方が申立人の過去の男性関係等を厳しく詮索したり責めたりした点や相手方が申立人の過去の男性関係等の事実を親族等に不用意に暴露したことなどの点については、申立人の言い分にも聞くべきものがある。そこで、婚姻破綻に影響を及ぼしたと思われる当事者双方の非を総合的に考えると、結局、申立人から相手方へ金一〇〇万円を支払うこととするのが相当である。
なお、上記のとおり、申立人は、無職であり資産もないので、相手方に対する慰謝料の支払時期をこの審判が確定した日から一年間猶予することとする。
第四 結論
以上のとおりであるので、当事者双方の本件各申立の趣旨に反しない限度で、本件各調停事件につき、家事審判法二四条により、主文のとおりに審判する。
平成五年九月二二日
盛岡家庭裁判所大船渡出張所
(家事審判官夏井高人)